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高橋睦郎の詩 アイルランドで私は

詩人 高橋睦郎の直筆の詩を大島先生のところで目にした。
それは
原稿用紙の升目一杯に
勢いのある伸びやかな文字で
野田弘志に宛てて書かれたもので

正確な文言は覚えていないけれど

美しいものをみるのは怖い
美しいものを見たらそれを表現しきれない
美しいものをみたら目をつぶる
本質を描けないなら描くな
死期に悔いないように

というような内容
さらさらとした言葉で画家の友人への
とも 自分自身へのとも思えるメッセージを伝える。
覚えられないのなら
メモしてくればよかった。



彼のほかの詩はどんなのか?
興味がわく

若い時から 生きてることをギリギリ問い詰めるメッセージの詩を書いてきた

いろいろ読んでいくと旅の詩がある
ほんとうに
こんな経験を旅人はみんなする。
こんな経験をするために人は旅にでるのだろう。


アイルランドで私は

アイルランドで私は 毎晩
夜なかに起き出しては 旅の荷を整理した
ズボンを穿き セータを被り まだ暗い外に出た
頬にぶつかる空気も 靴底が踏む砂つちも
すべてが目覚めているのを 切実に感受した
そこでは樹は小枝の先まで血液の通う樹
鳥たちは一羽一羽 別の魂を持つ鳥たち
海がはじめて見るようにあたらしいから
この美しい世界がいつかは終わることが
疑いを容れる余地なく 確かに信じられた
生きていると感じる一瞬一瞬が痛いほど甘美だから
一瞬一瞬のいつ終わってもいいように
つねに自分のこの世の旅を整理していた
アイルランドで

(高橋睦郎『柵のむこう』不識書院刊より)
by endoms | 2010-06-14 00:10 | 捨てたモンじゃない