人気ブログランキング | 話題のタグを見る

んちゃって英語ガイド

endoms.exblog.jp
ブログトップ

おっこちゃん の ゲップ

大学1年の6月
定期試験も近づいた頃

論理学の授業でいきなり知らない人が
『これまでのノート貸してください』とやってきたらどうする?

私は「いいよ」と貸してあげちゃった。
それがオッコちゃんとの出会い。

次の日、オッコチャンは小川軒のお菓子をくれ、
自分の家に遊びに来てと熱心に誘う。

まじまじと見ると
オッコチャンは頬の真ん中にまんまるのクリーム色の軟膏がこんもり。
20年前にはやったようなグレーのスーツを着て、鬘をつけている。
どう見ても 変な子に見えた。

それからも頼まれるたびに色んな授業のノートを貸してあげ、
そのたびに東京や横浜の一流店のお菓子をもらう。
遊びに来てと頼まれるたびに何かの理由で断っていた。

兄のひとりは商社員でベルギー、
もひとりはソルボンヌの大学院で国際政治学の学生という。

オッコチャンは中学生靴にピンクのソックス、
おばさんスカートに毛玉のセーター。
茶色のカーディガン。
話し方もゆっくり。
信じがたかった。

それでも、あまり熱心に誘うのである日、
他の友人も誘って彼女の自宅に行く。
なんと品川駅から10分の日本家屋大豪邸。
お手伝いさんがフォンデューの夕食を用意してくれる。

少したってオッコちゃんと親しくなると
彼女は子供時代からを語り始めた。
両親の不仲、別居、母親の同棲などで
オッコチャンは、高校時代に精神を病んでいて回復期だった。
薬の副作用で太っていた。


男になろうと決めて
髪を坊主にし背広で出歩いたり、
にきびの痕を治そうと
顔の皮膚の移植手術を受けたりしたのよ。と笑う。

2年になると母親に頼まれて、
彼女の家庭教師を引き受けた。

大学で同級生の家庭教師をするなんて
想定外だったが
フォンデューや異国の料理の魅力に負けた。
横浜でブティックを3軒経営する母親からは洋服を山のようにもらった。

私は自分の友人を次々とオッコちゃんの家に連れて行った。
オッコちゃんも喜び
お手伝いのおばあさんも
『オッコちゃんの友達が来てくれた」といつも張り切るので
そんな顔を見たかった。

ところでずーと
オッコちゃんの好きな食べ物は ゲップ だった。
特に一年に数回しか食べないショートケーキのゲップが好きだった。
オッコちゃんいわく

「少し食べ物を口にして、空気をいっぱい吸うと ゲップが出やすい。
ゲップが出ると口の中に食べ物の味が戻るの。
そうしたら少しのものでも何度も食べた気分になる。」

オッコチャンはズーッと厳しいダイエット中だった。
みんなが遊びに行って、大胡馳走を食べていても
彼女はコンニャクのきんぴら。
ちょっとの甘味料のゲップが嬉しいと言った。

22歳で死んじゃうまで、こんにゃくを食べ続けた。
ゲップも食べ続けた。
by endoms | 2008-04-11 00:01 | それぞれな女たち