安永さんは言った。
「仕事を楽しいと思ったことはない!
ただ、仕事が終わった後は楽しい。
やり終えた気持ちの高ぶり、達成感がある。」
ベルリンフィルで長いことコンサートマスターをつとめたバイオリニストは
小学校の校長先生のようなやわらかい声と優しい目で
演奏曲目が全部終わった後で
マイクもなしにキタラの大ホールの聴衆にゆっくり語りかけた。
札響とは昨日から練習したが、
初めて会うとは思えない。
最後のリハーサルのころになると家族と思えた
音楽を愛するものという家族
そうゆっくり語りかける言葉の真心
そしてアンコール曲は
レーベンの抒情詩アンダンテ 愛の夢
その音色は弦楽室内楽用の小編成と
8割の入りながら彼の作り出す優しい音の世界を楽しむ聴衆との間に
生まれたあったかい会話のよう。
充分心を躍らせた演奏会の帰り、ずっと考えていた。
「仕事の間楽しんだことはない。終わった後が楽しい。」
という彼の言葉が琴線に触れたのだ。
楽しいという言葉の意味を誤解してはいけないことは十分承知。
彼は演奏を楽しまない訳ではない、
楽しいという次元を超えた楽しさなんだろう。
自分を振り返ると
準備の時も、している間も、終わった後も仕事が楽しい。
それは実は陥穽に落ち込んでいることに気がつかないことなのかもしれない。
もし、
この楽しいという次元でのみ仕事を継続したら、
確実に自分の能力は落ちていくのかもしれない。
あの優しい語りの安永さんは
実はとても真摯な気持ちで真実なキツイことを言っていたのだ。
この言葉を胸に刺したまましばらく考えよう。